1月13日に放映されたNHKスペシャル「終の棲家はどこに~老人漂流社会」を観られて、衝撃を受けたという方が多い。観ていない方のためにかいつまんで内容をいうと、病院にも施設にも入ることができない一人暮らしの高齢者がショートスティを繰り返したり、ホームレス支援の無料宿泊所を利用したり、という「漂流」の実態を描き、問題提起している。その様な環境に置かれた4人の高齢者が登場し、4人のうち1人は症状が悪化して緊急入院先の病院で亡くなるが、後の3人はいわゆる高齢者向け住宅(うち2人はサービス付き高齢者向け住宅)が受け皿となって安住の地を見つけたというストーリーである。ただし、サービス付き高齢者向け住宅でも「重くなればでていかねばならない」とのアナウンスが強調されていて「ここも安住の地ではない」としているのが疑問だったが。
多分、これが「地域包括ケア」の実態の側面なのでないかと思う。地域包括ケアシステムを作らざるを得ない外的要件は、介護療養型施設の廃止を計算に入れておかねばならないことと、特養・老健などの施設の新設・運営が財源的に厳しいことにあるからだ。安住の地は、病院でも施設でもなく「地域である」となると、自宅での生活の困難性を地域で支えられるかという難題に立ち向かわざるを得ない。
「いつまでも住み慣れた地域で」というのは耳障りは良いが、実際には地域がそれを受け止めるほど育ってはいない。むしろ、地域は防衛的になってきている。
前述の番組でも、車いすだが意志はある程度伝えられる高齢者(要介護2~3程度?)が公営住宅に住まいがありながらショートスティを転々とし、サービス付き高齢者向け住宅の入居が決まった段階で公営住宅を引き払うシーンがあった(整理業者が家具を壊したりする強烈なシーンはいかにも映像で訴えるという感じ)。本来の地域包括ケアを目指すなら、むしろその公営住宅に一人でも安心して住めるようケアマネジャーや介護保険サービス、民生委員、隣近所の住民などが協力すべき場面を観たかったが、現実はこのようなものだろう。推測するに、この方は移動が車いすなので「公営住宅の階段」の問題が大きかったのかも。「階段」一つで地域包括ケアが崩れるという象徴的なシーン(サービス担当者会議でのやりとりなど)を観せてくれると、もっと問題提起になったと思うが。まあ、大体が映像に撮られることを拒否するので無理だろうことはわかるが。
そのサービス付き高齢者向け住宅であるが、間違いなく上述したような方々の受け入れ先となっている。サ付き住宅は厚労省も推進しているように、病院・施設に頼らないケアを「地域包括ケア」というのなら、まさにその核となるのだろう。そのような潮目を読んだ事業者が、サ付き住宅をうなぎ登りに増やしている。
また、有料ホームの届出もサ付き住宅の登録もしていない(できない)高齢者向け住宅も多い。そういう所も「低所得一人暮らし高齢者」向けの受け皿となっている実態がある。とりわけ北海道にはその様な住宅が多く、私どもが把握している限りでも札幌市内で150箇所以上ある。「高齢者下宿」という形態も多い。これだけあるから、札幌市では退院後に自宅に戻ることができずショートをたらい回しするという実態はあまり聞かれない。むしろ入院中にMSWやケアマネジャーがこのような高齢者向け住宅を紹介し、スムーズに退院後のケアにつなげている。
「漂流社会」は、多分首都圏で頻発されている事象なのだと思う。北海道はもともと家族介護に頼ることができない状況にあったから、むしろその受け皿としての高齢者向け住宅が伸びてきたのだろう。
先の「サービス付き高齢者向け住宅も安住の地ではない」ということについては、その事業者の考えもあるが、今時「重くなったら出て行ってもらいます」というようなサービス付き高齢者向け住宅が選ばれるのかなあ・・むしろ、終末期まで看ることのできる高齢者向け住宅こそが求められている。